ALPINE GUIDE Tsutomu Sugisaka
アルパインガイド 杉坂 勉
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ヨセミテ遠征報告(後編)
2006年6月9日〜6月22日
アメリカ合衆国 カリフォルニア州 ヨセミテ国立公園(YOSEMITE National Park California USA)

    
 お待ちかねのヨセミテ遠征報告後編です。前回では、苦闘の果てにやっとの思いで、ヨセミテへたどり着いたことから、パノラマトレイルのトレッキングへ行ったところまでを報告しました。ところがところが、ここまであまりにとばし過ぎ、少々疲れ気味!!さてさてその後はどうなるか?では続きをご覧ください???

リーズピナクルエリア
 今回の遠征の目的のひとつに、ショートルートでハイグレードをこなすということを、掲げていました。そこで、去年はいけなかった、リーズとクッキーはぜひ行きたいと考えていました。そこでこの日はリーズピナクルエリアへ行くことにしました。
 リーズピナクルへは、キャンプ4から西へ下っていき、120号と140号のジャンクションを120号へ。1〜2分行くと、最初のトンネルがあり、それを出てすぐにパーキングエリアがあり、その先が、岩場です。入り口にはカラビナマークの道標があるので、すぐにそれと分かります。僕らが行くと、既に3人組が取り付いていて、人気エリアであることをうかがわせていました。
 彼らは、どうやらダイレクトルートに取り付いているらしいので、僕らは隣のレギュラールートへ。2ピッチ登ったところで、このエリアの名前がどうして付けられてたのかが分かりました。ここは、遠目には1枚岩のように見えますが、実は巨大なピナクルの集合体だったのです。このレギュラールートはまさしく、その巨大なピナクルを次々と辿っていくルートで、ところによっては、足元がすっぱりと切れ落ちていて、高度感満点!!内容も、ハンドクラック、レイバック、オフウィドゥス、と変化に富んでいて、なかなか楽しいルートでした。中でも3P目5.8のスクイズチムニーのトラバースは、ヨセミテならではといった感じでした!!
                        

番外編 今日はその後、このエリアのルートを見て回ったのですが、右奥に行ったところで、なにやら足元からガラガラ音がします。見ると、3mほど先に、ヘビが!!ガラガラヘビか!?とまれ、その場を立ち去り、早々にパーキングへ引き上げました。私、山でヘビを見たときは、何かよくないことが起こる前触れで、要注意なときなのです・・・。このヘビもその後の僕の行動に何か警笛を発していたのでしょうか?
 しかし熱い、毎日暑すぎるぜ・・・・・

クッキークリフ
 さて、いよいよ今日はクッキークリフへ!願わくば今遠征中に、5.11クラスを1本登って帰りたいものです!!
 とまあ、気合を入れてクッキーに乗り込んだまではよかったのですが、この日も朝から快晴で、既に気温は30℃を軽く越えようかという勢い。さらにここまでの疲れがどっと出てしまい、たかだか10分程度のアプローチも足取りが重い・・・。
 とりあえず荷物を置き、トポを片手にあちこち歩き回った。まずはこれからやってみるか・・。と、向ったのはMeat Grinder。全2ピッチで、1P目は5、9程度なので、気楽に取り付いてみたのだが、外傾テラスのビレイ点でロープを結んでいる時に、既に暑さで頭がクラクラ。見上げるルートは5,9とは思えないような威圧感さえ感じてしまう。

 1本登れば気分も変わと思い、取り付いてみた。コーナーの両サイドは思ったよりスリッピーで、なかなか緊張させられるルートだ。中間部からクラックはワイドになっていき、体をスタックさせようとするが、なかなかうまく決まらない。そのうちにどんどんパワーが奪われてきた!なんだよーたかだか5,9じゃねーかよー、何でこんなにムズイんだー!!どうにかテラスに這い上がったが、もう息が上がってしまい、クリップさえままならない。やっとの思いでアンカーを作り、ロープにぶら下がった。

 登るのに何分かかったかは分からないが、カムを回収しながらロワリングしているときに、もう朝の気合はどこかに消えうせてしまった。変わりに感じるのは、自分自身の不甲斐なさと、レベルの低さ、体力のなさなどなど・・・。すっかり自身を失ってしまいました。
 ビレイ点まで降りると、そこは灼熱地獄と化していて、意識朦朧。とにかくロープを解いて日陰へ避難。とうとうここでダウンしてしまったのでした・・・。
 この後、妻もトライしてみたが、肩の筋を痛めてしまったり、それではとパットアンドジャックピナクルに移動するも、またもや気味の悪いヘビに遭遇し、しかもそいつは、まさしくこれから登るとするクラックに入り込み、見事なまでのジャミングを僕らに見せ付けて、そのままクラックの奥へと消えていったのでした・・・。あーここまで来ると、もうやる気なし、意気消沈でキャンプ4へ帰っていったのでした。
 この日を境に、楽しいはずの遠征は転落の一途。打つ手打つ手が裏目に出てしまう。そんな感じでした。

休息日
 今から思えば、もっと休息日をとるべきでした。正味10日間はあったのですから、3日に一度は休息日に当てるべきだったのかもしれません。そこで報告も一休み。この休息を利用して、今回行ったボルダリングをご紹介します。
         
  Big Columbiaの裏          Patway Boulders はハウスキーピングの向かい。洗濯しながらボルダーを楽しめる

         
            キャンプ4周辺のボルダー               Big ColumbiaのMantle V2          

スネークダイク 5.7R★★★★★
 さて、今回の遠征もいよいよ大詰め。帰国の日が刻々と近づいてきます!!ところが今のところ、これといった成果がありません。連日の猛暑では、おそらくハードな課題をこなすのは無理でしょう。このままでは、何も得るものがないままトボトボ帰ることになってしまいます。いっそのこと、トゥオラミへ移動しようかとも考えましたが、現在トゥオラミへの道は除雪中で、それも無理・・・。妻と二人でいろいろ考え、結局、それならせめてスネークダイク1本だけでも登ろう、二人でハーフドームの頂上に立とう!ということになりました。
 この日は5時に車をカリービレッジの駐車場に止め、必要最小限の装備だけを持って出発。あたりはまだ薄暗く、渓谷全体が息を潜めて日の出を待っているといった感じ。それでもハーフドームを目指すハイカー達は既に何人かいて、足早にマーセド川沿いのトレイルに消えていきます。
 道は途中でミストトレイルと、ジョンミュアートレイルに分かれますが、我々は登りの少ないミストトレイルを選びました。ミストトレイル?最初は何だかわけが分からずに進んでいたのですが、やがてその“訳”とやらを思い知ることに・・・。

 それは、この先にヴァーナルフォールがあり、道がその滝のすぐ脇を通っているため、飛沫がまるで雨のように降ってくるのです!滝自体は、そんなに大きなものではないのですが、何せこの時期は水量が多いため、滝を通過するころには既に全身ビショ濡れ。まだ朝日の当らないトレールは、風邪をひきそうなくらい寒かった!!事前にカッパの上着くらいは着ておくべきかもしれません。

 あまりの寒さに休憩もままならず、とにかく先へ。ヴァーナルフォールを過ぎると、やがて道は右岸に移り、頭上には顕著な岩のピークが二つ間近に迫ってきます(右の写真のピークがそれ)。やがてトレイルから離れ、二つのピークの間を割って入るように進んで行くのですが、入り口、ルートはとても分かりづらい。概ね右のピークの基部を目指して登って行くと、運がよければ小さなケルンと、うっすらと付いている踏み跡を見つけることが出来るでしょう。我々も本当に運良く、踏み跡を見つけ、後はそのふみ後を外さないように進みました。右のピーク(Liberty Cap)の基部をぐるっと回りこむように進むと、そこは小川の流れる小さな谷になっていて、とてもきれいな光景が広がっていました。
 そのままだと、どこまでも真っ直ぐに進んで行きたいような感じになりますが、谷をぬけたところでふと左を見上げると、そこには何やら見慣れない大きな岩山、というより巨大なスフィンクスが・・・。それはまさしくパノラマトレイルから見たハーフドームと同じ姿。のっぺりしたスラブを身にまとい、そこに鎮座しているのは、まさしく今日の目標、ハーフドームなのでした!
 そこでルートを90度左へ。程なく目の前には巨大なハーフドームと、その下にはロストレイクが広がりました。

すっかり日も登り、あたりは急に活気に満ちた風景に変わっていました。僕らもここで大休止。はじめて見る、こちら側からの光景を楽しみました。
 さあ、目指すハーフドームはもう目の前!ここからは道もはっきりとしてくるので、後はふみ後に沿って一路スネークダイクへ。まずは、ロストレイクを左側からぐるりと回り、オークの森へ。やがて森を抜けると露岩が目立つようになる。道はここから何通りかに分かれるようだ。ハーフドームの基部に沿うように、右から行く方法と、左に広がる森を抜けていく方法。どちらかというと、右から基部を回っていく方が楽だと思う。
 ブッシュの生え際や、岩のバンドを伝い、適当にルートファインディングしながら上がっていくが、さすがに直射日光の下では、体力を奪われていく。途中何度か細いバンドをトラバースし、取り付きのある基部へ回り込んだ。ここまで約4時間。最後の基部の上りは疲れた・・。
 さてさて、どこが取り付きかと壁を見上げると、ん!?そこはダイクだらけで、どれがスネークダイクか分からない!!げ、もっと下から見ておくべきだったぜ。荷物を置いて、トポを片手に基部をうろうろ歩き回るが、どれもルートに見えてしまい、一向に決め手を見つけることが出来ない。やっとのことで、“これ”と思しきところを見つけたのだが、いまいち半信半疑。とにかく登ってみようということで、ロープをつけて登りだした。ところが・・・。
 一向にビレイポイントが現れない。登っていても、これがホントに5,5か?と疑いたくなるようなクラックだ。体感的には5,9くらいに感じる。やっぱ調子悪いのかな・・・。自分に自信がもてない状態では、客観的な判断さえ難しかった。ロープ一杯、やっとの思いでビレイポイントと思しきところにたどり着くと、そこにあったのは、ハンガーボルトではなく、ピナクルにぐるりと巻かれた古いスリングだけだった。ビレイポイントを見過ごしてきてしまった!!しかしここからではクライムダウンもままならず、カムで補強してビレイポイントを作った。妻がフォローしてくる間、一生懸命ルートを探す。すると、すぐ上に、1本ボルトが打たれている。やっぱりここで間違いないんだ。ほっとした。
                  
 2P目、出だしから難しく、とても5.7クラスとは思えない。やっとの思いでボルトにランナーを掛けクリップ。その上、ダイクを延々とトラバースするが、ビレイポイントはとはどこへやら。3本目のボルトにクリップしたころから、もうルートがどこなのかぜんぜん分からなくなってしまった。まるで、広大なスラブの大海原で迷子になってしまった気持ちだ。さらにこの上で傾斜は強くなり、今辿っているダイクはその上へと消えている。これを辿っていって本当に、ビレイポイントがあるのか???無理だ・・・。これ以上は無理だ・・・。そして右の傾斜のゆるいスラブへ、決死の思いでトラバース。ここでぶっ飛んだら、ただじゃすまないな・・・。やっとの思いでフレークに手をかけた。フレアー気味のクラックにカムを突っ込み、ビレイ。妻も必死でフォローしてきたが、限界いっぱいなのか泣きそうな顔になっている。下を見ると、1パーティーが上がってきている。彼らは、僕らのいるルートからかなり左を登っていた。そこではじめて気付いた。「ルートを間違えた・・・」ここからでは、スネークダイクまでトラバースするのはもう無理。僕達はここから降りるしかなかった。しかしフレアーしたクラックで、このまま懸垂するのは怖い。ビレイポイントをさらにカムで補強するが、なかなか決まってくれない。さらにルートを間違えたというショックで、気持ちは爆発寸前だ。何とか支点を作り、懸垂を3回繰り返して基部まで降り立った。もう情けないやら、悔しいやら、申し訳ないやら、どうして?という思いで、しばらく茫然自失。へたへたと、すわり込んでしまった・・。
 時計を見ると、もう再トライする時間はない。多分時間があっても、気持ちが萎えてしまって登れなかっただろう。結局スネークダイクも駄目かよ。これだけは何としても登りきり、二人でハーフドームの頂上に立って、いい思い出をひとつぐらいつくりたかったのに・・・・・・・。二人とも身も心もボロボロになって、もと来た道をトボトボとくだっていったのでした・・・・・・。

さらに・・・
 失意のスネークダイクから1日明け、もうどこにも行く気が起きない。しかし皮肉にも、飛行機のチケットはFIXなので、帰るわけにも行かない。相変わらず日中は死にそうなくらい暑く、クライミングどころじゃない。何とか気持ちを取り直し、キャンプ4に程近い、サニーサイドベンチへいってみることにした。
 サニーサイドベンチは、ヨセミテフォールのすぐそばにあり、遊歩道からも徒歩1分。ジャムクラック5,9やブーマー5,10cなどがあり、ちょと遊ぶにはちょうどいいエリアだ。日中の猛暑を避けて、3時ころから登りに行ったのだが、ここは先ほど述べたようにヨセミテフォールのすぐそば。取り付きにまで、かすかに飛沫が飛んでくるようなところだ。爆風もそよ風になって吹いてくるため、とても涼しいところだった(ビレイしていると寒いくらい)。ただ、人気エリアでもあるので、順番待ちは必至。僕らも悠長に構えていたため、他パーティーに先を越され、結局ジャムクラック1本登っただけで時間切れ。
 さらに車に戻ってみると、何とワイパーに駐禁の切符がー!!!!!!!!!!車がわずかに駐車スペースから外れていたために、切符を切られていたのだった。昨日に引き続き、なんてこった・・・・・。

最終日
 いよいよヨセミテも今日で最終日。長かったキャンプ生活も、今思うと信じられないくらい、あっという間でした。最終日は、2時ごろ渓谷を出れば十分なのですが、昨日までの出来事に少々ショックを受けていて、撤収作業もままならないといった感じ。のろのろと片づけをして、気が付けばもう11時。撤収作業をしていると、キャンプ4で知り合いになった日本人の青年が、手伝いに来てくれました。彼は、話を聞くと何と北米大陸最北端から、南米大陸最南端まで、自転車で縦断している最中で、旅費も現地調達しながらなので、なかなか先へ進めず、アラスカを出発して、既にもう2年目に突入してしまったとのこと。ついつい話が長くなり、昼食を一緒にすることに。さらに話を聞くと、彼は日本で彼の旅を支援してくれている人たちに、定期的に新聞を作り、送っているらしい。手書きのその新聞を見せてもらったが、イラスト入りでなかなか面白かった。そこで、新聞の話題をいつも探しているということなので、食後にボルダリングでもどう?と誘ってみた。すると大喜びで、やってみたいという。僕らも、最後くらいは楽しい思い出がほしかったので、意気投合してボルダリングすることになった。
 最後に選んだのは、アワニーボルダー。ホテルのすぐ前に広がるエリアだ。時間は既に2時を過ぎているが、夢中になって最後のヨセミテを楽しんだ。そのうちに大阪から来た女の子2人組みも一緒になり、さらにわいわいがやがや。不運続きの毎日ではあったが、何だか最後はまあ楽しく過ごすことが出来た。
 みんな一通りパンプしたので、ボルダリング大会終了。みんなに別れを告げ、僕らはヨセミテ渓谷を後にしたのでした。
                   

帰国
 とうとう今日は帰国日。左ハンドルの運転も今ではお手の物。今日は道に迷うこともなく(ナビのおかげですが・・・)、空港のレンタカー会社までたどり着きました。大きな荷物をカートに積み込み、チェックインカウンターへ。オーバーチャージの手続きに時間をとられ、出発前にビールで乾杯は出来ませんでしたが。今思うと、楽しい思い出こそ少ないものの、妻と二人、万難辛苦を乗り越えた2週間でした。そしてこの困難を二人で乗り切ったことが、この旅の最大の収穫なのかも知れません。何だか口惜しいような気持ちを胸に、飛行機へのゲイトをくぐり、帰国の途に着いたのでした・・・・・・おしまい
       

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